「仕事を効率的に進めるためには「優先順位」を考えて行動しなければいけない」とよく言われます。当り前のことのようですが、本当にそうでしょうか? 意外かもしれませんが、実は「優先順位」を気にしない方がうまくいくことが多いのです。
一口に「優先順位」といっても、大きく分けて2つの状況があります。1つは、急な仕事が飛び込んできたり、突発的なトラブルが発生したりして、対応を迫られる場面です。
例えば、もし複数のサーバーが同時にダウンしたとしたら、どれを優先して復旧するか判断を迫られますよね。このように、予想していない仕事が同時に発生した場合、優先順位の判断はきわめて重要です。
もうひとつは、事前にわかっているタスクのなかでの順番です。どのタスクを先にやるか(いまから何をやるか)という判断ですね。こちらの優先順位をあれこれ考えることは、実はそれほど重要ではありません。
とはいえ、私も以前は毎日「優先順位」を考えていました。いろいろな仕事に追われ、「どのタスクを先にやるべきか」といつも気にしていました。毎朝、自分が抱えているタスクの優先順位を考えて、実行する順番を決めて……と、やっていた時期があります。
To Doリストに残っているタスクを確認し、新しいタスクを書き加え、それぞれの優先順位をまず「A、B、C」で決めて、さらにAのタスク中での順番を、A1、A2、A3、A4……のように決めていました。
To Doリストには、たくさんのタスクが並んでいます。この数日中にやらなければいけないタスクだけでも20個くらいあります。それらの順番をチェックし、ときどき入れ替えたりする作業は結構時間がかかります。毎朝20分くらいは悩んでいたものです。
タスクの数は減らないし、いつまでも消えないタスクが残っているし……、毎日なんとかやりくりするけど追いつかない自転車操業という感じで、時には絶望感を感じることもありました。そしてその後、毎朝タスクの優先順位を考えることはやめました。それでも問題はありませんでしたし、逆に「優先順位」よりも大事なことに気づいたのです。
毎朝、To Doリストを整備していた頃の私は、いつもタスクの優先順位を気にしていました。当時は「仕事を効率的にやるためにしかたない」と思ってやっていましたが、いまふり返ってみると、当時の私はタスクをやるのが期限ギリギリになってしまうことが多く、「仕事に追われている」という感じでした。
一方、その後タスク管理がうまくできるようになってくると、タスクの優先順位(実行する順番)は気にならなくなってきました。タスクをうまく計画できるようになり、余裕を持って早めに実行できるようになってくると、優先順位は気にならないのです。
もちろん、タスクをやるべきタイミング(どの日にやるか)は考えます。でも、そのタイミングは「大体合っていればOK」という感じです。以前よりも早めにタスクに取りかかれているので、多少順番を前後させたとしても、まだ余裕があるからです。
最初に述べたような急な仕事が飛び込んでくる状況は別として、事前にわかっているタスクの優先順位にピリピリしたり、頻繁に順番を入れ替えたりするのは、仕事に追われていることの表れです。
私が懸命にやっていたつもりのタスクの順序決めは「その場しのぎ」でしかなかったと思います。実際、タスク管理がうまくできるようになればなるほど、どんどん優先順位が気にならなくなりました。「優先順位を考えて行動する」よりも、「多少優先順位を入れ替えても支障ないくらい、余裕を持って早めに行動する」ことの方が重要だったのです。
何か不測の事態があって、仕事に追われる状況になってしまったときは仕方ありません。その場しのぎであれ、優先順位を考えて行動していくしかありません。しかし、時間管理の本来の目的は「仕事に追われる」状況をつくらないようにすることです。いつも優先順位を気にしなくてもいい状況でいられるのが理想です。
そもそも、仕事の順序を入れ替えること自体は、基本的に仕事の効率とは関係ありません。いくら順序を入れ替えても仕事量が減るわけではありません。それよりももっと大事なことがあります。
優先順位に関連して、仕事を「重要度」と「緊急度」のふたつの尺度で分類する考え方があります。割とよく知られているので、ご存じの方も多いと思います。
仕事を下の図のように「重要」か「重要でない」かの尺度、「緊急」か「緊急でない」かの尺度で分類したとしたら、左上の(重要で緊急)仕事を優先するのは当り前。問題はその次です。
右上の(重要だけど緊急でない)仕事は、長期的には重要な仕事。しかし、人は誰でも、左下の(重要でないけど緊急)仕事、つまり、目先の割とささいなことにかまけて、右上を後回しにしてしまいがちなものです。
この分類は、自分の行動を振り返って見直してみるために有効です。自分の過去の行動を振り返ると耳が痛いという人は多いはずです。私もいかに「重要だけど緊急じゃない」ことを後回しにしてきたことか……。
でも、この考え方は、現在抱えているタスクにはうまくフィットしないことがあります。例えば、出張旅費精算などのちょっとした事務処理を自分の仕事の中で「重要」だという人は少ないと思います。それよりも重要な仕事は山ほどありますね。
でも、重要じゃないからといって、これを後回しにしていると、締め日の前にあわてたり、催促されたり、怒られたりするかもしれません(私はよくありました……)。
こういった事務処理などは、決して「重要」とはいえないかもしれませんが、いずれやらなければいけない仕事です。こういう仕事を後回しにすれば、その場は少し助かるかもしれません。
でも、それはただのその場しのぎにすぎず、結局いつかはやらなければいけません。今やっても後回しにしても所要時間は同じですから時間の節約にはなりませんし、仕事の効率アップにもなりません。私はそこを勘違いしていたんですね。
重要であるどうかに関わらず、マストの仕事はマストです。「やらない」という選択肢は基本的にありません。こういう仕事は忘れないうちにさっさとやってしまった方がスッキリしますし、全体的に仕事の効率は上がります。
もちろん、マストでない仕事(やらなくても問題ない仕事、回避できる仕事)なら、「重要でないものは優先順位を下げる」「できるだけ回避する」という考え方は有効です。
このように、タスク管理では重要度や緊急度以外に、「マストか、マストじゃないか」という尺度も必要です。私は「重要度」のようなあいまいな概念よりも、むしろこちらの方に注目すべきだと考えています。
ここを勘違いしてしまうと「本人は重要な仕事を優先しているつもりだけど、明らかにマストな仕事をやらない困った人」になってしまいます(部下や後輩にそんな人いませんか?)。
ちなみに 右上の仕事(重要だけど緊急でない仕事)をうまく進めていくためには、「重要な仕事を優先しよう」と思うだけではなかなかうまくいきません。もっと具体的な方策が必要です。
おそらく最も簡単で効果が高い方法は、その仕事を短時間のタスクに分解して、それぞれ実行日を決めることです(第3回も参考にしてみてください)。
具体的に実行日を決める(実行日に書く・入力する)ことで、その日に確実に思い出せますし、短時間のタスクなら忙しい中でも実行できます。「まだまだ時間はあるから」「時間があるときにやろう」と油断しがちな方は試してみてください。
水口 和彦(みずぐち・かずひこ)
大阪大学大学院修士課程修了。住友電気工業株式会社でエンジニアとして勤務するなかで時間管理を研究し、残業を大幅に削減。その経験を活かし2006 年に独立。数少ない「時間管理(タイムマネジメント)専門講師」として、数多くの企業や自治体、教育機関などで研修や指導を行い、早稲田大学エクステンションセンターの講師も務める。『部下を持つ人の時間術』(実務教育出版)など時間管理に関する著書多数。「まぐまぐ」よりメールマガジンを毎週配信中。
所属:有限会社ビズアーク/時間管理術研究所
この記事は株式会社パシフィックネットが運営していたWebメディア「ジョーシス」に 掲載されていた記事を転載したものです。
2016年2月8日掲載