リーダーのための「時間管理」解決クリニック3
「“ノー残業”に反発する部下に困っています」

ここは時間に追われ、忙しいリーダーのために開設されたクリニック。

このクリニックには時間管理にお悩みのリーダーが処方箋を求めて来院します。

おやおや、今日もお悩み抱えたリーダーがやってきたようですよ……。

【今回のお悩み】

高橋さん(仮名)課長職(45歳)

部下の池崎君に困っています。実は、弊社では全社的な残業削減の取り組みが始まっているのですが、残業が減らない部下が何人もいます。その中でも彼は最も残業が多く、手を焼いています。


残業削減の取り組みに関しても反抗的で、「納期に間に合わなくてもいいんですか?」と脅すようなことも言ってきます。仕事のできる部下なのですが、残業を減らそうという意志は全然ないように思えます。


上からは残業を減らせと言われるし、部下からは反発されるし、こんな板挟み状態がこれからも続きそうです…。


※このお悩みは実際のご相談の内容を元にしたフィクションです。


実はこれ、残業削減の取り組みをしている会社ではよくある話です。


残業削減に関しては、やる気や責任感のある人、仕事のできる人が反発することが意外と多いものです。でも、高橋課長のように上からは部下の残業を減らせと責められ、下からはできないと反発される板挟みになると大変ですね。状況を整理して、どう取り組むか考えていきましょう。


そういえば、去年10月に東京都庁が「20時完全退庁」の取り組みを始めて話題になりました。そして、開始から1か月間の退庁時刻の集計が発表されています。それを見ると20時に退庁していない人が平均で約1割もいます。これを見る限りでは「完全退庁」にはほど遠いといえます。


とはいえ、こういった取り組みが無意味なわけではありません。仕事のやり方や習慣を変えるのには時間がかかる場合もありますがが、続けていけば変化は必ず訪れます。また、積極的に時間管理、タスク管理を行うことでさらに改善していくことも可能です。


では、対策を解説していきましょう。

【残業削減に反発する部下への対策】

「残業ありき」から「残業をあてにしない」働き方へ

昔は「残業削減」というと「残業代カット」のイメージがありました。実際、業績不振の時期に残業削減を行った企業も多くあります。しかし、「残業をつけなければいい」とサービス残業をする人も多くいましたし、業績が回復すれば元通りに普通に残業もできました。


一方、現在多くの企業が取り組んでいる残業削減は目的が違います。


サービス残業をすれば(させれば)コンプライアンス(法令順守)上の問題になる。長時間労働が多いとメンタルヘルス不調が増える恐れがある。残業が多いというだけで「ブラック企業」と呼ばれて企業イメージが悪くなる…。


そんなふうに、長時間労働にともなう問題が顕在化してきました。ですから、企業としては残業削減に取り組むのは当然のことなのです。ある意味、これまでとはルールが変わったようなものです。


しかし、「残業するのが当り前」という働き方をしていた人のなかには、いきなりのルール変更に納得できない人もいます。例えば、やる気や責任感がある部下ほど(今までよく残業をしていただけに)反発が大きかったりしますし、上司としても、そんな部下の気持ちもわかるだけにあまり強くは言えない。そんな困った状況になりがちです。相談者の高橋課長もそうかもしれません。


そうはいっても、ルールが変わった以上は新しいルールを守らなければいけません。あるいは、そもそも、これまでのルールが間違っていたというべきなのかもしれません。後戻りはできませんから、「残業ありきの働き方」を「残業をあてにしない働き方」に変えていかなければいけません。


では、「残業ありきの働き方」になってしまっている原因はどこにあるのでしょうか? こう聞くと、ほとんどの部下は「仕事量が多いから」と答えます。しかし、それが正しいとは限りません。


そもそも、仕事量と労働時間は比例しているとは限りません。


残業に頼って仕事を進めることが習慣になっていると、仕事量を減らしても残業時間はあまり減らないのです。その逆もあります。「残業をあてにしない働き方」に変われば、仕事量が同じでも残業時間が減る場合があるのです。

「読み間違い」による残業をなくすには?

残業に頼ってしまう理由の1つが「読み間違い」です。


例えば、「複数の仕事が重なっていることに気づかなかった」「うっかり忘れていた」という失敗で、残業しないと間に合わなくなる場合があります。あるいは、「その仕事が予想したよりも時間がかかった」「別の仕事が急に入ってきて時間を取られた」というのもそうです。読み間違いのために時間が足りなくなり、残業せざるを得なくなるわけです。


後者の2つは不可抗力のように思うかもしれません。しかし、実際には過去に似たような事例はあったはずです。これまでに「予想以上に時間がかかった仕事」はたくさんあるでしょうし、予定外の仕事が入ってきて時間を取られるのもよくあることです。


例えば、先週1週間をふり返ってみれば、「予定外の仕事がほとんど入らず、存分に自分の仕事に集中できた」という日なんて、あんまりないことが分かります。本来なら、それらを踏まえて余裕を持って早めにスタートすべきなのに、スタートしなかったというのも一種の読み間違いです。


これらは、バッファ(タイムスケジュール上の余裕)が足りないスケジュールで動いた結果、間に合わなくなり、残業で帳尻合わせをしているのと同じことです。残業で帳尻合わせすれば、決定的な失敗は避けられます。でも、決定的な失敗がないからこそ、次もまた同じことをくり返してしまうという問題は残ります。


先の都庁のように、退庁(退社)時刻を決めるのは帳尻合わせの手段を取り上げるようなものなので、残業に頼っている人にはなかなか受け入れがたいものです。守ろうとしない人は必ず出てきます。


高橋課長の部下の池崎さんも、この帳尻合わせの残業が習慣になっているのではないかと思います。「納期に間に合わなくてもいいんですか?」と、高橋課長に迫ったそうですが、これは「今日残業しないと間に合わない」状況にまで追い込まれていることを表しています。


おそらく本人も「もう少し早くスタートしておけばよかった」と心の中では思っているのではないでしょうか。その段階で「今日残業するか、しないか」の議論をするよりも「今後、追い込まれないためにはどうすべきか」というところを指導するのが1つの方法です。


「残業をあてにしない働き方」に切り換えていくには、読み間違いがあることを前提にして(読み間違いがあっても大丈夫なように)、早めにスタートを切ることが必要です。


そのためには、前シリーズの第3回で紹介したように、各タスクのタイミングや全体の仕事量を俯瞰できるよう整理することが有効です。いわゆる「タスク管理」ですが、ただタスクを書くのではなく、「実行日に書く」のがおすすめです。


それによってそれぞれの日の仕事量を把握できますし、それぞれのタスクをやるべきタイミングを考えやすくなります。バッファを考慮して実行日を決めることが「残業をあてにしない働き方」につながります。


「集中できる時間がない」せいでの残業をなくす

もう1つ当てはまるかもしれないのが「集中できる時間がない」から残業に頼るという状況です。


日中は電話がかかってきたり、人がやってきたりで、自分の仕事を中断させられることが多く、仕事に集中できない…。だから、残業時間に入ってから、じっくり考える。というパターンが習慣になっている状況です。前シリーズの第8回で紹介した「残業から本気」という状態です。


こうなると、じっくり考えたい仕事は残業時間に持ち越すのが当り前になってしまっています。この状況で仕事量を減らしたとしても、残業はなかなか減りません。これを変えるためには「集中できる時間」を少しでも増やすことが必要です。


例えば、会議の削減や短縮によって定時内の「使える時間」を増やすことは確実に効果があります。お互いにジャマをしない(話しかけない)時間帯を作るといった取り組みも有効です。1時間、あるいは30分でもいいので、集中できる時間を作れるように、小さなことから手を打っていきましょう。


ちなみに先ほどの「読み間違い」による残業を私は「なりゆき残業」と呼んでいます。「残業から本気」とともに典型的な「ムダな残業」ですね。

強硬策を続けるのも1つの手

退社時刻を決めてそれを強制的に守らせることも、長期的には改善につながります。


帳尻合わせの残業ができなくなると、当初は失敗や混乱が起こります。しかし、失敗があるからこそ「早めにスタートしなければいけない」と気づけます。残業できないならできないなりに、各自が仕事のやり方を少しずつ変えていきますし、会議なども短縮しようという動きが出てきて、長期的には改善の方向に向かいます。


改善に向かうまでの間は反発もありますから、継続していくのは大変です。有効な方法の1つです。逆に、安易に残業を容認するのは問題を先送りすることと同じなのです。


ただし、これは徹底しないと意味がありませんから、「納期に間に合わなくてもいいんですか?」と言われたくらいでひるんでいてはいけません。強硬に徹底することで「残業をあてにしない働き方」にシフトせざるを得ない状況をつくらなければいけません(途中で折れると元の木阿弥です)。強力なリーダーシップが求められますが、これも1つの方法です。


最後に「残業削減に反発する部下」に困っている人への処方箋を出して今回の診察は終了です。

【残業削減に反発する部下に困っている人への処方箋】

■ルールが変わった以上、後戻りはできないと心得よう
■追い込まれてから「残業する、しない」を議論しても仕方ない。今後のためにタスクをどう管理すべきか指導しよう
■「集中できる時間」が足りないと残業に頼ってしまう。集中できる時間を増やすための手を打とう
■退社時刻を強制的に守らせるのも1つの手。失敗をふまえて「残業をあてにしない働き方」にシフトさせよう


水口 和彦(みずぐち・かずひこ)

大阪大学大学院修士課程修了。住友電気工業株式会社でエンジニアとして勤務するなかで時間管理を研究し、残業を大幅に削減。その経験を活かし2006 年に独立。数少ない「時間管理(タイムマネジメント)専門講師」として、数多くの企業や自治体、教育機関などで研修や指導を行い、早稲田大学エクステンションセンターの講師も務める。『部下を持つ人の時間術』(実務教育出版)など時間管理に関する著書多数。「まぐまぐ」よりメールマガジンを毎週配信中。


所属:有限会社ビズアーク/時間管理術研究所

この記事は株式会社パシフィックネットが運営していたWebメディア「ジョーシス」に 掲載されていた記事を転載したものです。
2017年1月19日掲載